エコパスコラム

企業の生物多様性の取り組みに役立つ情報を更新していきます

企業人のためのエコロジー入門(No.1「成長の限界」)

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本シリーズでは、 生物多様性に取り組む企業人が知っておくべき生態学の知識について、ポイントを絞ってお伝えします。

その1 「成長の限界」

 

人口増加と経済成長が今のまま続けば、100年以内に人間社会は食料等の資源不足や環境汚染などによって限界を迎えるだろう

これは、ローマクラブ1972年の報告書「成長の限界」が指摘した内容です。報告書が指摘した後も人口と経済の成長は続き、気候変動や生物多様性の劣化といった課題が顕在化しています。

 

図1数の増減と環境の関係は、生態学のメインテーマの一つです。ネズミ算式に増えるとよく言いますが、環境が整っていれば生物は本来の繁殖力にあった速さで増加します。その速度は種によって大きく異なります。例えばアフリカゾウは成熟するまでに十数年かかり、次の子供を産むまでのインターバルも十年近くになりますが、同じ哺乳類でもハツカネズミは数か月で成熟し一年中次から次へと子供を産んで繁殖します。そのためゾウは一度数が減るとなかなか回復しませんが、ハツカネズミの場合は環境がよければまさにネズミ算式に数を増やすことになります。

しかし、こうした急激な増加はいつまでも続くわけではありません。餌の量や空間には必ず制約があるため、やがて数の増加は頭打ちになります。こうした資源の制約による個体数の上限を、生態学では「環境収容力(Carrying capacity)」といいます。

企業の成長ステージでも、同じような変化パターンが見られます。新規分野を開拓した企業は、当初は少ない従業員から出発し、急速な事業拡大にともなって従業員数を増やし、やがて市場が飽和するとそのキャパシティに合った数の従業員になります。生態学(Ecology)と経済学(Economy)という言葉は、ともに同じ“oikos(家・共同体)”というギリシャ語に由来し、システムの変動や環境との関係を扱うという点も同じであるため、上の例のように相通じるものが感じられます。

 

さて、近年シカが増え図1すぎて、農林業被害だけでなく、生態系にも大きな影響が出ています。右の写真は東京都奥多摩町で2005年に撮影した写真ですが、シカの背の届く高さまで、樹木の葉が一枚もなくなっています。シカによって境界線が引かれているように見えるので、ディアラインと呼ばれます。シカがもっと高密度になると、樹皮まで剥いで食べてしまうため、樹木が枯れて白骨樹の森になっているような場所もあります。

なぜシカは高密度になっても増加速度が低下せず、生態系を荒廃させるほど増えてしまったのでしょうか。色々な意見がありますが、理由の一つに、食べる餌を変えることができるというシカの特性があります。普段は葉っぱの細い草を食べ、それが無くなると他の草や樹木の葉を食べ、それもなくなると落ち葉や樹皮を食べるといったように、状況に合わせて食べる餌をどんどん変えていくことができます。すなわち、シカは自ら環境収容力を引き上げていくことができるということです。しかし環境収容力を極限まで高めて高密度に達したシカの集団は、ちょっとした環境の変化(例えば大雪や極低温など)によって大量死(クラッシュ)を引き起こすことが、知床のエゾシカ集団で観察されています。

 

翻って私たち人間はどうでしょうか。狩猟採集の時代、稲作農耕の時代、そして近代科学の時代と、人間は新しい技術を開発するたびに人口の上限を増やしてきました。現在、約73億人に達した世界人口が、一(いち)生物であるヒトの環境収容力をとっくに超えているのは明らかです。といっても、シカと同じ轍を踏まないための選択肢はまだ残されています。環境負荷を減らすゼロエミッション、生態系サービスの持続可能な利用、それを支える生物多様性の保全といった取り組みによってレジリエンスを高めることができれば、私たちの社会を安定した状態で継続させていくことができるでしょう。

生物多様性の保全が叫ばれるなか、企業への期待は一層増してきています。余裕があるから保全に取り組むのではなく、社会の一員として企業活動の中に当たり前のように生物多様性保全が組み込まれているという状態が、これからの企業には求められていくのではないでしょうか。

 

◆参考とした書籍◆

鬼頭宏(2007)図説 人口で見る日本史、PHP研究所

 

by 北澤哲弥

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