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企業人のためのエコロジー入門 No.5「日本は世界のどの地域で生物多様性に影響を与えているか?」

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グローバル経済の下、経営の効率化や安定化を図るためにサプライチェーンの複雑化が進んできました。自社の取引相手が国内企業のみであったとしても、広い目で見れば世界的なサプライチェーンの中に組み込まれていることも多いのではないでしょうか。このことを考えると、外国で起きている生物多様性の危機において、日本の企業も無関心でいることはできません。

 

自社のサプライチェーンが生物多様性に及ぼす影響を、どのように評価すればよいのでしょうか。まず思いつくことは、自社の取り扱う原材料やサプライヤーの情報整理です。原材料や素材ごとに、どれくらいの量をどの地域から仕入れているのか、といった情報をまとめます。単純に考えれば、仕入れる量が多いほどその地域の生物多様性に与える影響が大きくなります。

ただし、動植物は地球上に一様に分布しているわけではありません。地域によって偏りがあります。たとえば希少な動植物が多く暮らす自然保護区やその周辺地域で事業活動が行われている場合、別の場所と比べて事業が生物多様性に及ぼす影響度が大きくなる可能性が高い、ということです。もちろん公的な自然保護区に指定されていなくとも、地域の水源となっている森や、コミュニティーにとって重要な場所などもあります。こうしたローカルスケールの視点を持って情報収集を行うことは、地域に根差した事業を行うためには大切なことです。

サプライチェーンを通した生物多様性への影響を評価するためには、事業に関わる情報だけではなく、生物多様性に関わるローカルな情報を合わせて考えることが大切です。

 

ところで、日本のサプライチェーンはどの地域に大きな影響を及ぼしているのでしょうか。日本企業が特に気を付けるべき地域が明らかになっているのであれば、企業にとってもサプライチェーンマネジメントを進めるうえでの参考となります。そのベースとなる情報を、今年2017年1月に発表された「グローバル・サプライチェーンがもたらすホットスポット(動植物が危機にある場所)の可視化」という論文に見つけました(Moran & Kanemoto, 2017)。

この論文では、IUCN(国際自然保護連合)が公表しているレッドリスト記載種の分布と危機の要因に関する情報および貿易統計等の情報を、産業関連表を用いて統合し、絶滅危惧種の脅威となっている原因の何%をどの国のどの産業が引き起こしているのかを関連付け、その情報を生物多様性フットプリントマップとして視覚化しています。

下図のうちcが日本の影響を示すマップで、陸上では紫が濃いほど、海域では青から黄色みが強くなるほど、影響度が高いことを示しています。この論文では、パプアニューギニアおよびその周辺海域、マレーシア(半島およびボルネオ島)、ブルネイ、タイ、ベトナム、スリランカなどの東南アジア諸国に対して、日本が特に強い影響を与えている、と報告されています。これらの中でも最初に名前が挙げられたパプアニューギニアは、日本への年間輸出額が2187億円で、タイ2.2兆円やマレーシア1.9兆円などと比較して10分の1程度にすぎません(数値は2016年、財務省貿易統計より)。それなのに、日本の影響度が最も高い地域とされていることは、パプアニューギニアの生物多様性が豊かであると同時に、他地域よりも相対的に影響度が大きい活動が行われていることを示しています。

 

この論文は、生物多様性の保全において日本が特に責任を持つべき地域を明確にしたと言えます。生物多様性の持続可能な利用、あるいはSDGs12に明記された責任ある生産と消費は、特に企業が主体となって解決すべき社会課題です。この課題を解決するためには、既存のサプライヤーの事業活動を評価し、生物多様性への影響度が高い場合は事業を改善させることや、場合によっては影響度の低い地域へサプライチェーンを変更することなどが挙げられます。こうした取り組みを通して、日本の企業が世界各地の生物多様性の保全の担い手になることが期待されています。

 

◆引用・参考資料◆

Moran & Kanemoto(2017)Identifying species threat hotspots from global supply chains, Nature Ecology & Evolution 1, Article number: 0023

財務省貿易統計国別総額表 (2017年4月18日確認)

 

(by 北澤 哲弥)

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