国連生物多様性サミットから考える、これからの企業の生物多様性

9月30日、ニューヨークで国連の生物多様性サミットが開催されました。国連の会議では異例の150か国と72の国家元首/政府首脳が参加し、生物多様性に対する関心の高さを伺い知ることができます。日本からは小泉進次郎環境大臣がビデオメッセージでスピーチを行いました。今回はこのスピーチをもとに、これからの企業に求められる生物多様性への取り組みポイントを読み解いてみます。

小泉大臣は、スピーチの中で今後重視すべき2つの視点について述べました。一つめは「経済社会システムの再構築が必要であり、そのためには持続可能なサプライチェーンが欠かせない。そして、持続可能なサプライチェーンの促進のために、ESG投資が重要だ」ということ。Global Risks Report2020で生物多様性の損失が最も重大な環境危機の一つにあげられているにもかかわらず、気候変動と比較して生物多様性関連のESG投資の進捗が遅く、その活性化を考えての発言と思われます。

実際、EUタクソノミー、生物多様性版TCFD、生物多様性を対象としたISO規格など、生物多様性に関連する情報開示や規格化が世界的に動き始めており、これらの動きには注視が必要です。

こうした流れが企業の取り組みを後押しする力になることは間違いありません。しかしESGの情報開示は様々な枠組みや評価方法があり、情報を集めるだけでも一苦労です。情報開示のツールにふり回されて、情報ソースとなる生物多様性の取り組みそのものの質が上がらなければ、元も子もありません。

新型コロナでますます見通しを立てづらくなっている時代、これから企業はどのように生物多様性に取り組めばよいのでしょうか。一つは持続可能なサプライチェーンの構築ですが、小泉大臣がスピーチで述べた二つめの重要な視点から、そのキーワードが浮かび上がってきます。

そのキーワードとは「里山」です。西欧諸国では人間活動と自然保全は相反するものとして捉えられがちですが、日本では自然を持続的に利用し共存する関係を築いてきました。地域の自然を生かした持続可能な社会のロールモデル、それが里山なのです。ポストコロナの時代、地域コミュニティを里山の自然や文化を生かした手法で活性化させ、生物多様性の保全と持続可能な利用を推進し、地方分権型社会へと移行することこそが、感染症を含めレジリエントでサステナブルな社会構築に不可欠だ、ということを大臣のスピーチから読み取ることができます。サミットでグテーレス事務総長が示した「Nature-based Solutions(自然を基盤とした解決策)を、新型コロナを含む幅広い開発計画に根付かせること」の具体化にもつながる内容でした。

地域の自然や文化を活かす、そのことが自社にとって直接的あるいは間接的にどのようなチャンスになるのか、逆に地域の自然や文化を無くすことは自社にどんなリスクとなるのか、それらのイメージを明確にして生物多様性に取り組むこと。これからの企業にはこの姿勢が求められるようになる、ということを小泉大臣のスピーチは示唆しているのかもしれません。

(北澤哲弥)

◆小泉大臣のスピーチ動画

<https://www.youtube.com/watch?v=5WoQ0JjMzP8&feature=youtu.be&t=16510>

◆グテーレス事務総長の発言

<https://www.unenvironment.org/news-and-stories/story/biodiversity-takes-center-stage-75th-session-un-general-assembly>

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