自然関連情報を開示する企業が増えてきていますが、ステークホルダーから評価を得られる内容になっているでしょうか。いま企業に求められる行動は、ネイチャーポジティブなビジネスへの移行です。それゆえ開示によって評価を得るには、各地で行われる自社事業がネイチャーポジティブになっている(これから移行する)ことが前提となります。
この夏、環境省がネイチャーポジティブ経済移行戦略のロードマップを公開し、そこには企業に期待する取組も示されています。本記事では、このロードマップのポイントを踏まえつつ、企業の事業所や活動地域ごとにネイチャーポジティブをどう現場実装するかについて整理します。
環境省が2025年7月に策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」では、2030年までのネイチャーポジティブ経済への移行実現を目指して、国だけでなく、企業や自治体をはじめとしたステークホルダーが、「いつまでに、何をすべきか」といった方向性を共有するための道筋が示されています。
ネイチャーポジティブ経済に移行した状態とはどのようなものでしょうか?ロードマップでは以下に示した3つの状態が描かれています。
| 内容 | |
| A | 個々の企業のネイチャーポジティブ経営への移行が進んでいる状態。 自然へのネガティブな影響よりも、ポジティブな影響が上回る経営状態を目指し、既存ビジネスにおいてリスクを回避できており、新規ビジネスにおいてもリスクに配慮した展開ができており、機会を起点にビジネス化ができている状態。 |
| B | 情報開示を通じ取組が投資家や地域に高く評価され、企業価値の向上と地域価値の向上に結びつき、取組がさらに促進される好循環が生まれている状態。 |
| C | 上記の絵姿の実現のための基盤環境が整備されている状態。 |
Aに示されたように、まず企業は、自社が事業を行えば行うほど各地の自然が豊かになるよう、ビジネスの変革を進めます。例えば、建設関連の企業であれば開発前と比べて、より広い、より質の高い緑地をつくる取組だったり、食品関連であればサプライチェーン上流の農地における環境保全型農業へのシフトだったりがあげられます。こうした取組を通して自然へのネガティブインパクトを減らしつつ、ポジティブな影響を拡大させます。そしてBではこうした取組について、いつまでに何をするかを示すことにより、自社がネイチャーポジティブ経営に移行しようとしていることを示すことが重要です。その開示情報があれば、ステークホルダーは「●●年までにネイチャーポジティブ経営に移行しようとしている、サステナブルな企業である」と判断することができます。
なおロードマップでは、大企業に対しては2027年度までにネイチャーポジティブ経営に移行すること、中堅・中小企業は2027年度から2030年にかけてネイチャーポジティブな取組を推進することを求めています。
では、ネイチャーポジティブを現場レベルに落としこんでいくにはどうすればよいのでしょうか?
それを考えるうえで大事な視点の一つが、自然には地域性があるということです。自然は土地に根付いたものです。ある場所でのマイナス影響を遠く離れた場所でのプラス影響で相殺することは、基本的にはできません。
またもう一つ重要なことは、その自然は地域で暮らす人々や企業など他のステークホルダーと共有している、ということです。ロードマップでは、ネイチャーポジティブ経済に向けた重要な視点として、「ランドスケープアプローチの観点から地域の自然資本を活かしたNPな地域づくりを実現~企業価値と地域の価値を併せて向上、地域活性化に繋げる~」を挙げています。企業がネイチャーポジティブな取組を進めることで、依存や影響を及ぼす地域の自然資本を豊かにすることは事業を持続可能にするだけでなく、地域の価値も向上させることになるという視点を持つことの重要性が示されています。
これらの視点を持って現場にネイチャーポジティブを実装するには、LEAPアプローチにならった取組を現場ごとに行うことが重要だと考えています。
各現場を対象にしてローカルにLEAPアプローチにならった現状把握や評価を進めれば、自社が関わる自然が事業所やその周辺地域のどこにあるか、その自然にどのような動植物や生態系が見られるか、ネガティブインパクトは発生していないか、その自然を共有するステークホルダーはだれかなど、現場固有の情報が集まります。これらの情報をもとにすれば、現状よりも多くの動植物が暮らせるようにするにはどう緑地を配置し、どのような維持管理を行い、進捗評価のために何をモニタリングすればよいか、だれと協働すればよいかなどを検討する材料となり、その結果はネイチャーポジティブに向けた実施計画としてまとめることができます。
現場固有の情報に基づいた実施計画を自社が関わる現場すべてで作ることができれば、ポイントを踏まえたネイチャーポジティブの現場実装が大きく前進することになります。
国でも企業の現場におけるネイチャーポジティブを後押しする施策がいくつも進んでいます。環境省の自然共生サイト、国交省のTSUNAG認定、森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針などです。いずれの制度でも、現場の管理計画をネイチャーポジティブにすることが求められると言えます。
皆様が関わる現場で、ネイチャーポジティブを達成できている場所はどれくらいあるでしょうか。一気に100%にする近道はありません。地域の状況に応じた管理計画を、地道に一つずつ積み上げていくことが大切です。
(北澤 哲弥)
















