OECM(Other Effective area based Conservation Measures)は、国立公園等の公的に保護されている地域ではないものの、「生物多様性の効果的かつ長期的な保全に貢献している地域」を指す用語です。 愛知目標の後継となる「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」では、2030年までにネイチャーポジティブへの転換、すなわち生物多様性の損失を止めるだけでなくプラスに反転させることが目標となりました。GBFに示された23の個別目標のうち、中心的な目標の一つが「30by30」です。この目標では、2030年までに、各国の陸域と海域の30%を保全エリアにすることが目指されています。現在の日本では陸域の場合、約20%が保護区となっていますが、30%を達成するにはまだ関東地方1都6県よりも広い3.8万㎢が不足しています。また、現在の保護区は原生自然に偏って配置されており、日本の生物多様性を特徴づける里山の豊かな自然などが含まれていないなど、質的な課題もあります。 そこで30by30達成に向け、日本では「自然共生サイト」というOECM推進のための制度が始まりました。農作物がつくられる農地、林業が営まれる森林、工場緑地や公園など、人が社会経済活動を営みながらも結果的に豊かな自然が育まれてきた地域を、保護区相当のエリアとして認定する制度となっています。自然共生サイトになれば世界のOECMデータベースにも登録され、登録地域は世界の保護区として認められることになります。
Global Risk Report 2023は、いま深刻度が急速に増しているリスク・クラスター(相互関連しあうリスク群)として、5つの項目を示しています。その1番目が自然生態系に関するもので、「自然生態系は、気候変動と関連したトレードオフおよびフィードバック・メカニズムの増大により、自然資本リスク(水、森林、生物といった「資産」)が悪化し、取り返しのつかない状態になる」と報告書は指摘しています。
リスクと影響の管理E:ステークホルダー・エンゲージメントに関する項目 企業による自然への依存と影響は企業のリスクや機会を変化させるだけではなく、その自然を共有する地域コミュニティにも影響を及ぼします。先住民および地域コミュニティ(Indigenous Peoples and Local Communities: IPLCs)からの声を集め、意思決定に参画できる仕組み作りが、企業にも必要とされます。
森が減った分だけ植えて増やせばよい、という考えもあります。これは森林破壊ゼロに対し、正味での森林破壊ゼロ(Zero Net Deforestation)と言われます。植えて増やせば、確かに森林の面積は変わりません。しかし人間が植えて作った人工林は、どうしても動植物の種類や構造が単調になります。そうした林が自然林に近づくには、数十年あるいは数百年といった長い時間を要します。Brown & Zarin(2013)は、科学雑誌Scienceに掲載した論文で「正味の森林破壊に関する目標は本質的に誤りで、自然林を保護する価値と新規植林の価値とを同一のものと捉えている」と指摘しています。植林による森づくりは確かに生物多様性の保全や気候変動対策の一つではありますが、自然林を破壊する免罪符にはならない、このことはしっかりと意識すべきポイントです。