ダボス・アジェンダに見る、生物多様性の潮流

 毎年1月に開催されるダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では世界の様々な課題が議論されます。今年は延期が決まり、1月にはオンラインイベント「ダボス・アジェンダ」が開催されました。その場で世界のリーダーたちが口をそろえて指摘したのが、感染症リスクとともに、気候変動と生物多様性をはじめとする環境課題への具体的アクションの重要性でした。何名かのリーダーのスピーチをもとに、これからの生物多様性について考えてみたいと思います。

◆グテーレス国連事務総長
「気候変動と生物多様性の危機にも脆弱性がある。どちらも実在する脅威で、悪化が続いている。これらの損失に取り組むグリーンリカバリーが必要だ。」

出典:国連ウェブサイトより部分的に要約

◆フォン・デア・ライエンEU委員長
「自然が消え続けると、自然災害や人獣共通感染症が増える。私たちが自然を守るためにすぐ行動しなければ、次のパンデミックは間近に迫っている。また食品から観光まで、世界のGDPの半分以上が生物多様性と生態系に高度に依存している。森林の減少とは、緑地や自然の生息地を失うだけでなく、気候変動との戦いで重要なパートナーを失うことでもある。だからこそ、ヨーロッパは、健全な生態系を回復するための法的枠組みを示そうとしている。生物多様性について、パリ合意相当の枠組みが求められている。昆明での国連生物多様性サミットで、EUはグローバルレベルで同じ野心を仲介する準備がある。」

出典:EUウェブサイトより部分的に要約

◆マクロン・フランス大統領
「未来の経済はイノベーションと人類のことを考えた経済でなければならない。競争力とは、気候変動への挑戦や生物多様性アジェンダに私たちの社会を適応させるとともに、レジリエントな形でつくられる必要がある。今年は共通のルール作りの年。生物多様性にもパリ協定と同等の枠組みが必要」

出典:WEFウェブサイト動画より部分的に要約

◆ルッテ・オランダ首相
「持続可能な農業を追求することは温暖化対策や生物多様性の保護につながるだけでなく、新たな雇用を生み出す大きなチャンスだ」

出典:持続可能な農業を考える 世界経済フォーラム座談会|朝日新聞デジタルより引用

 このような世界のリーダーたちの発言を聞くと、生物多様性は単なる自然保護ではなく、人間社会の健康の問題であり、農業やその他の産業を支える問題であるということを強く認識し、急いで行動しなければならないという危機感を持っていることがわかります。そして欧州のリーダーたちは、経済の中に生物多様性の保全を組み込む世界共通の野心的なルールをつくることに積極的で、その場として本年5月に中国昆明で開催される予定の生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)を重要視しています。 昨年を振り返ると、夏にISOで生物多様性の規格作成が始まるというニュースがありましたが、これを主導しているのはフランスでした。そして同時期にEUでは「生物多様性戦略」と「農場から食卓まで(サステナブルな食料システムに関する戦略)」が策定されています。欧州は着実に生物多様性の社会実装を進めています。
 
 日本でもCBD-COP15で採択される国際目標を国内へと落とし込むために、「生物多様性国家戦略」の改訂が予定されています。また農業分野でも「生物多様性保全戦略」の改訂と「みどりの食料システム戦略」の策定に向けた準備などが進められています。

 生物多様性を各産業に組み込み、それをてこに経済を成長させていくという流れが世界中で主流化していく、2021年はそのターニングポイントになるかもしれません。

 なおダボス・アジェンダの開催とともに、世界経済フォーラムが毎年作成する「Global Risk Report 2021」が公表されています。ここでも、世界のリーダーたちが環境リスクに対する強い危機感を持っていることが感じられます。

(北澤 哲弥)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です