見逃しやすい、事業と外来生物との関わり

 今月、外来生物法の改正案が閣議決定されました。「アメリカザリガニとアカミミガメが特定外来生物に!」といったニュースをご覧になった方も多いかもしれません。外来生物は生物多様性を減少させる直接要因の一つです。しかし土地利用や資源搾取といった他の直接要因と比べ、自社事業と外来生物との関係性を把握できている企業は少ないように思います。TNFD(β版)は、自社と自然との接点の発見・依存と影響の診断を求めています。外来生物と自社事業はどう関係するか?今回はこの視点から企業が取り組む生物多様性について考えます。

 「入れない、捨てない、拡げない」外来生物対策の三原則に沿って、整理したいと思います。まず「入れない」という原則ですが、そもそも外来種を国内に侵入させなければ、外来生物問題は発生しません。
 数年前、日本でも侵略的外来種であるヒアリの発見が大ニュースになりました。その後も主要港湾でヒアリ発見の報告が続き、中には1000匹を超える大型の巣も見つかっています。いままさに日本はヒアリが定着するかどうか瀬戸際の状態で、今回の法改正にもヒアリ対策を目的とした水際対策が盛り込まれました。
 こうした水際対策の強化は、企業活動にも関連します。南米原産のヒアリは、いまや米国や豪州、中国の浙江省以南などで定着しています。もし輸入した物資のコンテナにヒアリの疑いのある虫がみつかれば、特定されるまでの間、荷物を移動できなくなったり、通関後でも検査や消毒、廃棄の命令を受けたりする可能性があります。言い換えれば、ヒアリが定着している地域から物資を輸入する場合、サプライチェーンにおける外来生物リスクが高まる、ということです。とくに中国ではヒアリが急拡大しており、日本で確認されたヒアリの多くが中国から運ばれたものです。
 ヒアリのような侵略的外来生物の分布拡大は、海外であっても対岸の火事ではなく、サプライチェーンを通して日本企業にもリスクが及びます。TNFDは事業における生物多様性リスクの評価を求めていますが、ヒアリのような規制対象となる外来種は、考慮すべき1つのポイントかもしれません。

 次いで「捨てない」についてです。外来生物が日本に持ち込まれても、適正に管理していれば野外に拡がることはありません。しかし外来生物は、今も野外で増え続けています。たとえば空港や港湾を抱える千葉県では、2012年から2020年の8年で、93種の新しい外来種の定着が確認されています。
 では、外来生物はどういうルートで侵入・定着するのでしょうか。千葉県の場合、外来植物では、農林業や造園業に使われた種が野外に拡散する、あるいは土やタネに紛れて非意図的に侵入した種が拡散する、というルートが多いようです。また外来動物では、農林水産業に関わる飼育や放流、ペット・飼育動物の逃げ出し、さらには放流される魚貝類に紛れこんで広がる、などのケースが多いようです。
 すなわち、農林水産業や造園業、ペット産業など、外来生物を生物資源として利用している企業は、直接あるいは間接的に外来生物問題に加担してしまうリスクがあります。TNFDは自社の直接操業だけでなくバリューチェーン全体について、生物多様性に及ぼす影響を評価するよう求めています。特に侵略的な外来生物が関わる場合、その影響は大きいと言えます。自社で直接扱っていなくとも、バリューチェーンを通じた外来生物との関りを評価すること、さらにはその影響を低減させるために、野外へ「捨てない(拡げない)」ためのアクションを実施することが重要です。

 最後の「拡げない」は、野外に定着してしまった外来生物の更なる拡大を防ぐ取組です。会社が管理する拠点や農林地などがある企業は、土地管理を通して関わりがでてきます。
 もし自社工場の敷地内に侵略的な外来生物が定着していると、自社が発生源となり周辺に拡がり、被害を大きくしまう可能性があります。すでに外来生物の防除に取り組んでいる企業もいらっしゃいますが、自社が管理する土地に侵略的な外来生物をみかけたら、責任をもって駆除することが望まれます。
 ただ、一度蔓延してしまった外来生物を減らすには、大変な労力が必要です。外来生物による被害を抑えるためにも、また対策の労力を抑えるためにも、早期発見・早期対応の取組が重要です。たとえば自社の敷地では未確認ですが周辺地域では確認されている(侵入リスクの高い)侵略的な外来生物の写真リストをつくり、侵入したら従業員が気が付ける体制にする、といった取組です。こうした早期対策は、外来生物被害の発生が避けがたい場合に、被害を低く抑えるためのリスクヘッジとして有効です。

 このように、サプライチェーン、生物資源、土地の管理などを通して、事業活動と外来生物との間には関連があります。これまでは意識せず、見落としてきた点もあったのではないでしょうか。TNFDをはじめ、ネイチャーポジティブを目指すESGが主流化する直前だからこそ、外来生物という切り口で自社事業を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。

 ※最後に余談です。上述したアメリカザリガニとミシシッピアカミミガメは、特例措置のついた特定外来生物に指定される予定です。特定外来生物に指定されると、輸入、飼養・栽培、保管、運搬、譲渡、野外への放出が禁止されますが、この2種は特別に、輸入、野外への放出、そして営利目的の飼養や譲渡のみ規制される見通しです。
 つまり、ザリガニを釣って、それを持ち帰って家で飼育することは、規制対象にはなりません。ただし、一度野外から持ち帰ると、だれかに(非営利で)譲渡するか、あるいは死ぬまで飼い続けなければなりません。野外に放した時点で、外来生物法違反(個人で最大300万円の罰金!)になります。(詳しくは改正案をご覧ください)
 外来生物も在来生物も、どちらも等しく生命を持った存在です。いま動植物を飼育栽培している方は、嫌われ者の外来生物として命を奪われる生きものがこれ以上増えないよう、最後まで面倒を見てあげてください。

 

(北澤 哲弥)

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