11/8オンラインセミナー「TNFDを踏まえた拠点の生物多様性の取組について考える2023」のお知らせ

 本年9月、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)ver1.0として生物多様性に関する情報開示の枠組みが公開され、いよいよ企業の価値・評価を見直す大きな転換期が迫っています。事業活動が立地する地域や事業内容により、対象とする自然は大気、土壌、淡水、海洋など多岐にわたり、自然への依存や影響度も大きく異なります。今回のセミナーでは、生物多様性を取り巻くサステナビリティの動向、LEAPアプローチに沿った拠点の自然情報把握、生物多様性オフセットについて話題を提供し、理解を深めます。
 多くの方のご参加をお待ちしております。

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【セミナータイトル】 「TNFDを踏まえた拠点の生物多様性の取組について考える 2023」

【日時】 2023年 11月8日(水)14:00~16:00

【開催方法】 オンライン Zoom

【対象】 生物多様性に関心のある企業の方

【参加費】 無料

【申込締切】 11月7日(火)18時

【主催】 株式会社エコロジーパス

【プログラム(予定)】

14:00~14:10 挨拶・進行

14:10~14:25 「生物多様性を取り巻く最近の動向」 講師:金澤厚

14:25~15:15 「TNFDを踏まえ、拠点の自然情報をどう把握するか?」 講師:北澤哲弥

15:15~15:35 「生物多様性オフセットの事例紹介」 講師:井上結貴

15:35~15:55 質疑応答 

16:00  終了

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日本電機工業会の機関誌『電機』に「自然資本関連の情報開示対応に向けて」を寄稿いたしました

一般社団法人日本電機工業会(JEMA)の機関誌「電機」2022年12月号(No.829)の特集「非財務・サステナビリティ情報開示フレームワークの動向」に、弊社北澤の「自然資本関連の情報開示対応に向けて~TNFDフレームワーク(ベータ版)の概要と企業の対応~」が掲載されました。

JEMAウェブサイトの最新号紹介にて、2023年1月中旬頃まで閲覧することができます。

TNFDフレームワークv0.3が示す、自然情報開示のポイントは?

 TNFDフレームワークv0.3が11月4日に公開され、情報開示のアプローチが改訂されました。v0.1のドラフト案では開示項目のほとんどがTCFDを踏襲する項目で構成されていましたが、今回の改訂案ではいくつかの項目が追加されています。ここでは情報開示フレームワークの改訂ポイントをもとに、TNFDが求める内容について考えます。

 2022年3月に公開されたv0.1では、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の四つの柱に沿って開示するドラフト案が示されました(図1)。開示が推奨される内容はTCFDを踏襲した構成になっている一方、異なる点も見受けられます。「完全性の低い生態系、重要性の高い生態系、または水ストレスのある地域との組織の相互作用について説明する」と記載された戦略Dです。自然を構成する動植物、水や土などの無機的環境は、地域によって大きく状況が異なります。戦略Dでは、その多様性を踏まえて事業と自然との関係を説明するため、地域ベースの評価が企業に求められることを意味しています。地域ごとに自然関連情報を収集し、リスクと機会を評価/管理する方法については、LEAPアプローチとしてハウツーがまとめられています。

図1 情報開示に関するTNFDのドラフト案(出典:TNFD,2022aよりエコロジーパス作成)

今回のv0.3では、さらに以下のような変更が加えられた開示勧告案が示されました(図2)。

変更点1)開示勧告第3の柱を「リスクと影響の管理」に改訂
 これまで「リスクの管理」とされていましたが、ここに「影響」が加わりました。あわせて「リスクと機会」に限られていた情報開示の各項目に「依存と影響」が追加され、いわゆるダブルマテリアリティを重視した枠組になっています。これにより、自然に対してネガティブ影響を与え続ける企業は低い評価を受けます。一方、ネガティブな影響の抑制やポジティブな影響の創出に取り組み、ネイチャーポジティブへの変革を目指す企業にとっては高い評価を得る機会にもなります。

変更点2)開示が推奨される項目の追加
 既存のドラフト案で示されていた戦略Dに加え、以下に示す3つの新しい項目が加わっています。

リスクと影響の管理D:トレーサビリティに関する項目
 企業が価値創造のために利用するインプットのうち、自然関連の依存と影響、リスクと機会を生み出す可能性のあるものを対象に、その供給源を突き止めるトレーサビリティの取組について、開示が推奨されています。バリューチェーンに沿って重要な調達先を理解するための透明・正確・完全なデータを持つことが、企業に求められます。

リスクと影響の管理E:ステークホルダー・エンゲージメントに関する項目
 企業による自然への依存と影響は企業のリスクや機会を変化させるだけではなく、その自然を共有する地域コミュニティにも影響を及ぼします。先住民および地域コミュニティ(Indigenous Peoples and Local Communities: IPLCs)からの声を集め、意思決定に参画できる仕組み作りが、企業にも必要とされます。

指標と目標D:気候と自然の統合に関する項目
 気候と自然の課題の同時解決に向け、相互の取組のシナジーやトレードオフ回避に関する開示を推奨しています。企業は、統合的視点や戦略を持って「ネットゼロ」と「ネイチャーポジティブ」の同時解決に取り組むことが求められます。

変更点3)評価範囲の追加
 自然関連の評価対象の範囲は、自社の直接の操業範囲に加え、サプライチェーンの少なくとも上流、適切な場合は下流についても、自然への依存と影響を評価・管理するための指標開示が求められます。評価対象が幅広いため、優先すべき評価対象地の特定や、直接操業の範囲から始めて徐々にサプライチェーンを対象に含めるなど、段階的にでも評価を進めることが望まれます。

図2 TNFD開示勧告の改訂案v0.3(出典:TNFD,2022bよりエコロジーパス作成)

 今回の改定で開示する項目が増え、やることが増えたと感じるかもしれません。しかしサプライチェーンのトレーサビリティやステークホルダー・エンゲージメントの取組は、地域ベースの評価を適切に進めれば、必ず実施すべき内容です。これらについては、いままで企業内でとどまっていた情報が、開示対象になったという性質のものと言えます。気候と自然の統合については、自然関連のシナリオ分析を行う際に統合的視点を持つことが要求されます。今回公開されたシナリオに関するディスカッションペーパーでは、シナリオの枠組が気候と自然を統合した内容として提案されており、気候と自然を統合させた戦略づくりに向けた一助となりそうです。

 TNFDフレームワークは、2023年9月の最終提言まで改訂が続きますが、軸となるコンセプトはだいぶ見えてきました。自然の評価には手間と時間がかかります。できるところから、早めの備えを始めてみてはいかがでしょうか。

◆引用・参考文献◆
TNFD(2022a) TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.1リリース エグゼクティブサマリー(日本語版)
TNFD(2022b) The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.3.
TNFD(2022c) The TNFD’s proposed approach to scenario analysis.

(北澤 哲弥)

TNFDβ版ならびにCDPの生物多様性取り扱い 解説ウェビナー

 いま、企業の生物多様性対応は、大きな転換期を迎えています。特にESGでは、ネイチャーポジティブの達成に向けて、企業に生物多様性・自然関連の取り組みを促す動きが進んでいます。

 本セミナーではTNFDとCDPを取り上げ、これからの企業が生物多様性をどのように取り扱えばよいか、その概要とポイントを考えていきます。

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【日時】2022年6月28日(火)15時~16時00分

【開催方法】ウェビナー(Zoom) ※お申込みいただいた方には参加用URLをお送りいたします。

【主催】株式会社エコロジーパス、国際航業株式会社

【参加費】無料

【開催概要】

 1.TNFD β版 にみる生物多様性対応のポイント(エコロジーパス)

 2.CDP質問書における生物多様性の取り扱い解説(国際航業)

 3.質疑応答

 4.生物多様性チャレンジ企業ネットワークの紹介

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いまなぜTNFDが求められるのか?

 今年は生物多様性条約で2030年に向けた国際目標が決まるなど、生物多様性に関連した大きな動きがあります。その中でも、生物多様性版のTCFDといわれるTNFDが注目を集めています。2023年公開に向けてまだ詳細は見えませんが、生物多様性に関する背景をもとに、いまなぜTNFDが求められるのかを考えてみます。

 世界経済フォーラムでは毎年グローバルリスクレポートを公表しています。2022年のレポートによると、生物多様性の損失は、気候対策の失敗及び異常気象に続き、今後10年間で最も深刻なリスクとなりうる3番目の項目に位置付けられています。なぜ生物多様性がこれほど深刻なリスクとして認識されるようになったのでしょうか。

 その背景には、ビジネスと生物多様性との関係がハッキリしてきたことがあります。SDGsのウェディングケーキモデルが示すように、経済・社会・環境の各分野は相互に結びつき、環境が社会を支え、社会が経済を支え、経済は環境に影響を及ぼします。世界の総GDPの半分以上(44兆ドル)が、自然とそのサービスに依存しているといわれ、私たちの暮らしや経済にとって生物多様性は欠かせないという認識が広がっています。

 しかし私たちの社会や経済を支える生物多様性は、いま、急速に失われています。生物多様性を減少させる直接的な要因は、土地利用や過剰採取といった人間活動です。そしてこれらの要因は、生産/消費パターンや人口増等といった経済社会システムのあり方が根本的な要因であることもわかってきました。このまま生物多様性が減り続ければ、今後数十年で100万種もの生物が絶滅の危機に瀕すると言われています。その影響は私たちの社会や経済に跳ね返り、このまま減少が続けば、2030年には年間2.7兆ドルもの経済損失を被ると試算されています。つまり、生物多様性の減少は単に自然がなくなるということではなく、社会経済の持続可能な発展を妨げる大きな社会課題であるわけです。企業にとっては、ビジネスリスク以外の何物でもありません。

 上述した生物多様性を減らす要因は、企業活動と深くかかわっています。世界で絶滅が危惧される種のうち、じつに79%が食料・土地利用・海洋利用、インフラ建設、そしてエネルギーと鉱業という3つの社会経済システムによって影響を受けているとされています。農林業に伴う土地利用変化や水へのインパクト、都市や工業地域の開発、ダム建設や資源採掘など、さまざまな経済活動が、生物多様性に影響を及ぼす要因となっているのです。

 一方、従来の経済社会システムから移行する動きも始まりつつあります。リジェネラティブ農業や植物性たんぱく質、森林再生、グリーンインフラ、サーキュラーエコノミーなど、様々な取り組みがあります。こうした流れは今後加速し、2030年までに3億9500万人の雇用、年間10兆ドル相当のビジネス機会を創出すると世界経済フォーラムは試算しています。

 これまでにも多くの企業が、環境負荷を減らしたり、絶滅危惧種をまもったりする活動などを行ってきました。これからの企業には、こうした保護や負荷低減に加え、生物多様性に関する変化がどう事業に影響を及ぼすかを理解してリスクを減らす取り組みを進め、さらには社会経済システムの移行をチャンスと捉えて自然再生型ビジネスを展開すること等が求められます。すなわち、生物多様性という物差しを使ってサステナブルな企業であるかどうかが判断される時代になる、だからこそTNFDというESG情報開示のフレームが求められていると言えます。

 社会貢献としての生物多様性の取組では、「地域のため、社会のために良いことをしているか」が分かっていれば十分でした。しかしESGの文脈においては「事業との結びつきの視点」が欠かせません。TNFDはその視点を与えてくれるツールになると思いますが、ハードルが高く、いきなりでは社内の理解が得られない企業もあるかもしれません。そのような場合には、個別に動いていた既存の生物多様性活動を事業と結びついた活動へと発展させていくことから始め、事業全体へと対象を広げていってはいかがでしょうか。

(北澤哲弥)