TNFDフレームワークv0.3が示す、自然情報開示のポイントは?

 TNFDフレームワークv0.3が11月4日に公開され、情報開示のアプローチが改訂されました。v0.1のドラフト案では開示項目のほとんどがTCFDを踏襲する項目で構成されていましたが、今回の改訂案ではいくつかの項目が追加されています。ここでは情報開示フレームワークの改訂ポイントをもとに、TNFDが求める内容について考えます。

 2022年3月に公開されたv0.1では、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の四つの柱に沿って開示するドラフト案が示されました(図1)。開示が推奨される内容はTCFDを踏襲した構成になっている一方、異なる点も見受けられます。「完全性の低い生態系、重要性の高い生態系、または水ストレスのある地域との組織の相互作用について説明する」と記載された戦略Dです。自然を構成する動植物、水や土などの無機的環境は、地域によって大きく状況が異なります。戦略Dでは、その多様性を踏まえて事業と自然との関係を説明するため、地域ベースの評価が企業に求められることを意味しています。地域ごとに自然関連情報を収集し、リスクと機会を評価/管理する方法については、LEAPアプローチとしてハウツーがまとめられています。

図1 情報開示に関するTNFDのドラフト案(出典:TNFD,2022aよりエコロジーパス作成)

今回のv0.3では、さらに以下のような変更が加えられた開示勧告案が示されました(図2)。

変更点1)開示勧告第3の柱を「リスクと影響の管理」に改訂
 これまで「リスクの管理」とされていましたが、ここに「影響」が加わりました。あわせて「リスクと機会」に限られていた情報開示の各項目に「依存と影響」が追加され、いわゆるダブルマテリアリティを重視した枠組になっています。これにより、自然に対してネガティブ影響を与え続ける企業は低い評価を受けます。一方、ネガティブな影響の抑制やポジティブな影響の創出に取り組み、ネイチャーポジティブへの変革を目指す企業にとっては高い評価を得る機会にもなります。

変更点2)開示が推奨される項目の追加
 既存のドラフト案で示されていた戦略Dに加え、以下に示す3つの新しい項目が加わっています。

リスクと影響の管理D:トレーサビリティに関する項目
 企業が価値創造のために利用するインプットのうち、自然関連の依存と影響、リスクと機会を生み出す可能性のあるものを対象に、その供給源を突き止めるトレーサビリティの取組について、開示が推奨されています。バリューチェーンに沿って重要な調達先を理解するための透明・正確・完全なデータを持つことが、企業に求められます。

リスクと影響の管理E:ステークホルダー・エンゲージメントに関する項目
 企業による自然への依存と影響は企業のリスクや機会を変化させるだけではなく、その自然を共有する地域コミュニティにも影響を及ぼします。先住民および地域コミュニティ(Indigenous Peoples and Local Communities: IPLCs)からの声を集め、意思決定に参画できる仕組み作りが、企業にも必要とされます。

指標と目標D:気候と自然の統合に関する項目
 気候と自然の課題の同時解決に向け、相互の取組のシナジーやトレードオフ回避に関する開示を推奨しています。企業は、統合的視点や戦略を持って「ネットゼロ」と「ネイチャーポジティブ」の同時解決に取り組むことが求められます。

変更点3)評価範囲の追加
 自然関連の評価対象の範囲は、自社の直接の操業範囲に加え、サプライチェーンの少なくとも上流、適切な場合は下流についても、自然への依存と影響を評価・管理するための指標開示が求められます。評価対象が幅広いため、優先すべき評価対象地の特定や、直接操業の範囲から始めて徐々にサプライチェーンを対象に含めるなど、段階的にでも評価を進めることが望まれます。

図2 TNFD開示勧告の改訂案v0.3(出典:TNFD,2022bよりエコロジーパス作成)

 今回の改定で開示する項目が増え、やることが増えたと感じるかもしれません。しかしサプライチェーンのトレーサビリティやステークホルダー・エンゲージメントの取組は、地域ベースの評価を適切に進めれば、必ず実施すべき内容です。これらについては、いままで企業内でとどまっていた情報が、開示対象になったという性質のものと言えます。気候と自然の統合については、自然関連のシナリオ分析を行う際に統合的視点を持つことが要求されます。今回公開されたシナリオに関するディスカッションペーパーでは、シナリオの枠組が気候と自然を統合した内容として提案されており、気候と自然を統合させた戦略づくりに向けた一助となりそうです。

 TNFDフレームワークは、2023年9月の最終提言まで改訂が続きますが、軸となるコンセプトはだいぶ見えてきました。自然の評価には手間と時間がかかります。できるところから、早めの備えを始めてみてはいかがでしょうか。

◆引用・参考文献◆
TNFD(2022a) TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.1リリース エグゼクティブサマリー(日本語版)
TNFD(2022b) The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.3.
TNFD(2022c) The TNFD’s proposed approach to scenario analysis.

(北澤 哲弥)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です