小さくはじめる生物多様性活動

 「生物多様性の取り組み、何から始めてよいのかわからない」「始めてみたものの、事業とのつながりがわからない」といった悩みをお持ちではありませんか。自然の姿は場所が変われば大きく異なり、事業との関わり方も企業ごとにまちまちです。そのため画一的な方法を当てはめにくく、何をすればよいかがわからない、なかなか始められないといった原因になっています。

 そんな悩みの糸口になりうるのが「スモールスタート」です。企業による生物多様性の取り組みは、サプライチェーンや事業全体で生物多様性との関連性の把握から始めること、とよく言われます。もちろん一理ありますが、最初から人員や予算を割いて大々的に行うことは難しいもの。そこで歩みが止まってしまっては、元も子もありません。まずは範囲を限定して一つの拠点で、規模は小さくともポイントを押さえた活動を始めてはいかがでしょうか。そんなスモールスタートのポイントについてご紹介します。

 なぜスモールスタートか。その利点は①開始までのハードルが低い、②失敗してもリスクが小さい、③トライ&エラーを通した改善が容易、という3点にあります。先の見えづらい活動に最初から大きな予算をつけにくいという運営上の理由に対し、まずは少ない予算・人数で始められることは大きなメリットです。また野外で自然を相手にするのですから、思ったような結果にならないことはよくあります。だからこそモニタリングで効果を測定し、結果が出ない場合はやり方を修正して再び試すトライ&エラーが、生物多様性の取り組みには適しています。

 ただ、小規模だからと言って、簡単にできることをやるだけでは効果的な活動にはなりません。たとえば、メダカを事例に考えてみましょう。身近な魚の代表だったメダカは、いまや国の絶滅危惧種です。その保護活動を行えば、生物多様性の保全につながる、これは間違いありません。しかし「メダカが減っているのは分かった。ただ、うちの会社がメダカを守る理由は何か?」と上司に問われたら、何と答えますか?
 「メダカは地域にとって大切だから」という回答では、その活動は企業にとって地域・社会貢献という位置づけ以上にはなりえません。言い換えれば、その企業の生物多様性保全活動がメダカでなければならない理由はないということです。他に優先的な課題が出てきたり、担当者が変わったりすれば、メダカの活動は打ち切りになるかもしれません。
 「排水先の河川でメダカが暮らすのは排水による悪影響が無いことの証し。だからメダカが暮らせる環境を守る」という回答であれば、その活動は環境負荷低減という事業との関わりが出てきます。排水基準を守ることは当然ですが、それ以外の部分で、自社の操業が周辺環境に対して本当に悪い影響を及ぼしていないか、ということを証明する生物指標として、メダカが暮らせる環境を維持しているわけです。
 他にも「環境保全型農業でつくられた農作物を扱っており、メダカがいる小川は自然と共生する作物のシンボル。だからメダカを保全する」という回答もあるかもしれません。その場合、商品の品質を裏づける存在として、また商品PRのシンボルとして、メダカは事業と深く関わる生物です。だからこそ社をあげてメダカを保全している、と言うストーリーが描けます。

 このように、スモールスタートであったとしても、事業や拠点と周辺の自然とのかかわりを押さえることは、生物多様性を踏まえた価値創造ストーリーを描くうえで重要です。一つの拠点だけで事業全体と生物多様性とのかかわりを把握できるわけではありませんが、考え方や視点を学ぶことができ、時間や労力も少なくて済みます。まずは一つの拠点で、規模は小さくとも効果の高いスモールスタートをきり、これをモデルとして他の拠点や全社的な取り組みにも展開できれば、生物多様性を社内で主流化する糸口になりえます。

 今秋は生物多様性条約のCOP15が開催され、2030年に向けた生物多様性の目標が設定されます。これにあわせ、国内でも様々な目標が更新される予定です。気候変動に関する取り組みがここ数年で大きく動いたように、生物多様性への世界的な潮流は次の数年で大きく動くことになるでしょう。生物多様性の取り組みをスタートしたい、あるいはリスタートを考えている方にとって、今年は絶好のタイミングとなりそうです。

 弊社ではこの5月より、拠点で始めるスモールスタート支援サービスを開始いたしました。工場など一つの拠点に絞り、事業とかかわりがある生物多様性の評価(スクリーニング)と保全活動の提案を、弊社のコンサルタントが支援するサービスです。ご関心ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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