生物多様性へのインパクトを管理し開示するには? ~GRI101:生物多様性2024へのアップデート~

生物多様性に関わる情報開示の流れが急速に進んでいます。TNFDをはじめ様々な動きがあり、そのすべてに目を配ることはなかなか大変です。ただそれらの内容には共通点が多く見られます。今回はGRI101:生物多様性2024を取り上げ、TNFDとの相違点と共通点、さらには情報開示に資する現場の取組のポイントとなるインパクト管理について考えます。


(1)GRI101とTNFDの相互の位置づけ

今年7月末にGRIとTNFDが相互運用について整理した資料を公表しました。この資料をベースに、両者の相違点と共通点を整理してみます。

最も大きな違いは自然関連イシューとして、TNFDがインパクトと依存、リスクと機会を扱うのに対し、GRI101ではインパクトに焦点を絞っていることです。TNFDが財務的なリスクと機会までの報告を求めるのに対し、リスクマネジメントとして事業による生物多様性へのインパクトを低減し、再生復元する取組にフォーカスしたのがGRI101といえます。
また報告対象となる地理的範囲もGRI101の方が限定されます。TNFDでは自然環境の側面でリスクの高い「センシティブな地域」と事業の側面で重要な「マテリアルな地域」に当てはまるサイトがすべて報告対象とされます。一方、TNFDのセンシティブな地域に相当し、かつ事業による重大なインパクトが認められるサイトに限って開示を求めるのがGRI101です。
他にも、インパクトドライバーは土地/海洋利用、資源利用、気候変動、汚染、外来生物の5つに分けていますが、気候変動に関する情報はGRI101では求められない(GRI305での開示)ことも相違点です。

一方、対象がサプライチェーン全体であること、コミュニティや先住民を含む社会への影響についても報告すること等は、TNFDとGRI101で変わりがありません。

TNFDが対象とする自然関連情報の中から、生物多様性に対する企業のインパクトを抽出し、その現状と課題対応に関する評価を中心とした情報を開示するのがGRI101と言えそうです。


(2)GRI101から見た生物多様性対応のポイント

次にGRI101の開示項目を確認し、そのポイントについて考えます。
GRI101の開示事項は8項目、うちマネジメントに関する開示事項が3項目、項目別の開示事項が5項目により構成されています。

表1 GRI101:生物多様性2024の開示事項

まずマネジメントに関する開示項目の一つ目、101-1は方針やコミットメントに関する項目です。国際目標や科学的な裏付けに基づいた方針や目標となっているか、目標実現に向けて原材料調達などの各現場に生物多様性への配慮が組み込まれているか、といった点が評価を得るためのポイントとなりそうです。 101-2のポイントは「ミチゲーションヒエラルキー」を生物多様性保全の原則とすることです。ミチゲーションヒエラルキーとは、生物多様性へのマイナス影響を減らすための考え方です。下表に示したように、優先順位のついたステップにより、生物多様性へのマイナス影響を管理する方法のことを言います。

表2 ミチゲーションヒエラルキーの考え方(①の優先度が最も高く、順に下がる)

事例として生産施設の増設を行う場合を考えてみると、担当者は以下のようなステップで生物多様性への配慮を検討していくことになります。

① 森林や農地を開発して新工場を建てるのではなく、既存工場内の土地や建屋を改築することで自然へのマイナス影響を回避できないか?
② 新工場の建設は不可避だが、開発予定地内に残る池や森をそのまま残すことができないか?残せれば生物多様性への影響を最小化できる。
③ 池や森を一度造成しなければならないが、同じ環境の水域や樹林を敷地内につくることができるか?④ 上記の取組を行ったとしても残ってしまうマイナス影響があれば、例えば周辺地域の環境を保全することでオフセットできないか?

このように、回避→最少化→復元/回復→オフセットという順に生物多様性への配慮を検討していくことが、ミチゲーションヒエラルキーに沿った判断となります。

次に101-4~101-8です。これらを見ると、LEAPアプローチをご存知の方はLocateとEvaluateフェーズに似ていると感じるのではないでしょうか。実際、GRIとTNFDが公開した資料を見ると、GRI101の求める開示情報とTNFDが開示指標とするコアグローバルメトリクスとは内容が重複します。事業活動のインパクトについては、TNFDもGRI101もほぼ同じことを求めているといえます。

まず101-4と101-5では、生物多様性に最も著しいインパクトを与える(与える可能性のある)サイト(自社拠点など)、製品、サービスを特定し、その場所と特定方法を示すことです。
これらの対象地における生物多様性の損失につながるインパクトドライバーについて、101-6でその説明が求められます。自社事業のインパクトは、5つのドライバー(土地/海洋利用、資源利用、気候変動、汚染、外来生物)に分け、指標を用いて開示する必要があります。ただし、先に述べたように、気候変動の情報開示はここでは求められていません。
なお101-6ではサプライチェーン内でのドライバーについても開示が求められ、デュー・デリジェンスの促進が課題となります。

101-7では、事業によって影響を受けた生態系や生物種の状況について報告します。インパクトドライバーは環境マネジメントシステムを通して把握している企業も多いと思います。しかし、その影響が及ぶ先の生態系や動植物の状況までも把握している企業は少ないのが現状です。次の101-8とともに、これらの情報を集めることが開示に向けた課題となる企業は多そうです。

101-8で報告が求められるのは、生態系サービスの状況とその受益者についてです。自社が依存する生態系サービスではなく、地域コミュニティや先住民といったステークホルダーが受益者となる生態系サービスに事業が影響を及ぼしていないか、という視点で説明をする必要があります。


(3)情報開示に向け備えるべきことは?

GRI101は2026年1月1日以降のレポートから対応が必要となります。GRI101に準拠した情報を開示し、開示によって評価を得るためには、上記(2)に示したポイントを抑えることが肝要です。

◆マネジメントに関しては、まず国際枠組に沿い、ミチゲーションヒエラルキーの原則を踏まえた生物多様性方針を明確にすること
◆個別には、重大な影響があるサイトについての評価を行い(特に情報が少ない動植物や生態系サービスを重点的に)、マイナス影響を低減させるための事業の変革、影響を受けた生物多様性の保全や再生につながる活動を開始/改善すること

これらの取組を進めることは、TNFDでも重要視されるインパクトを低減するリスクマネジメントにもつながります。
情報開示が本格的に開始されるまでまだ時間はありますが、生物多様性保全の取り組みは時間がかかります。開示が迫ってから焦ることが無いよう、今のうちから少しずつ取組を広げていってはいかがでしょうか。

(北澤 哲弥)

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